サウジアラビアとドイツ戦車

 レオパルド2型という戦車がある。長大な120ミリ砲を装備した62トンの巨体は、最高時速72キロという高い運動性を持つ。ミュンヘンのクラウス・マッファイ・ヴェックマン社製のこの戦車は、第二次大戦中にティーガー、パンターなどの兵器を生み、世界でもトップクラスの戦車大国だったドイツの伝統を受け継いでいる。レオパルド2型は、米英ソなどの戦車と比べても遜色のない世界最強の戦車の一つで、諸外国の陸軍では垂涎(すいぜん)の的である。シンガポール、スイスなど少なくとも14カ国がこの戦車をドイツから買って使用している。

 ドイツではこの戦車のサウジアラビアへの輸出計画をめぐり、激しい議論が起こっている。首相、外相、国防相などが安全保障に関する問題を協議する連邦安全保障評議会は、サウジアラビアに最新のレオパルド2型を200台輸出することを承認した。

 この決定については、野党だけでなく連立与党の内部からも批判の声が上がっている。サウジアラビアは、中東という紛争が多い地域にある上、国内で市民のデモを禁止するなど、民主的な国家とは言えないからだ。ドイツはイスラエルを支援しているが、イスラエルの友好国ではないサウジアラビアにドイツが大量の新鋭戦車を売ることには、道義的な問題もある。連邦安全保障評議会では軍事問題が扱われるので、協議内容は原則として公開されない。しかし野党は「これほど重要な問題は、連邦議会でも審議するべきだ」として、メルケル首相に対して情報開示を求めている。

 サウジアラビアは、今年3月にバーレーンで市民が民主化要求するデモを起こした時、装甲車を含む戦闘部隊を派遣してデモの鎮圧に協力した。強権支配で知られるサウジ政府は、隣国のデモが自国に飛び火することを恐れたのである。チュニジアに端を発し、エジプトでムバラク政権を倒した民主化要求運動は、今も中東諸国にじわじわと広がっている。

 ドイツや米国にとって、サウジアラビアは中東における重要な同盟国の一つ。同国はアルカイダなど過激なテロ組織との欧米諸国の戦いの中でも、大きな役割を果たしてきた。さらにサウジの石油が、欧米諸国にとって貴重なエネルギー源であることは言うまでもない。200台のドイツ戦車の輸出は、動揺が続く中東地域で貴重な同盟国を支えるという意味合いを持っているのだ。エジプトの例を見てもわかるように、欧米諸国は協力的な中東の国に対しては、国内の人権抑圧には目をつぶって、軍事援助を行なう傾向がある。

 スウェーデンの国際平和研究所(SIPRI)によると、ドイツは米国・ロシアに次ぐ世界第三位の武器輸出大国だ。世界の兵器市場のドイツのシェアは2000年から2004年には6%だったが、現在では約11%に増加している。最も多くドイツの兵器を買っているのは、トルコ、ギリシャ、南アフリカなど。インドとパキスタンの紛争地帯で撮影された映像には、ドイツの機関銃がしばしば映っている。ドイツは機械製造の分野で、世界でもトップ水準の技術を持つため、その兵器には多くの国が熱い視線を注いでいるのだ。第二次世界大戦の経験から、ドイツ市民の間には反戦的な思想を持つ人が少なくないが、政府と産業界は武器輸出に熱心だ。私は日本が武器輸出三原則を持ち、外国に一切兵器を輸出していないことを誇りに思う。外国の紛争でメイド・イン・ジャパンの武器が使われるのを見たくはない。日本には兵器の輸出を始めるべきだという声もあるが、私は武器輸出三原則を維持してほしいと思っている。

週刊ドイツニュースダイジェスト再掲 2011年7月